都市・建築デザインのプロを目指す関東圏の大学生による合同卒業設計展。出展数は関東圏では最大。講評審査会では最優秀賞1作品、審査員による個人賞5作品を決定。
赤レンガ卒業設計展2009
【出展者と来場者がキャッチボール】
まだ肌寒い時期に始まった全国各地の卒業設計展も、終盤を迎える頃には本格的な春が訪れる。「赤レンガ卒業設計展2009」の講評会が行なわれた3月29日は、建物前の広場に色鮮やかな花が咲き乱れ、まぶしい日差しが注ぎ込む穏やかな1日だった。
「♥
」をテーマに掲げた6回目の今年は、昨年より1校増えた関東の12大学が参加。出展作品も昨年より22点多い229点を数えた。従来は横浜赤レンガ倉庫1号館の2階だけで展示していたが、出展数が増えたため、1階の一部も展示スペースに追加した。1階展示スペースの横にはショップやカフェもあるから、商業施設を訪れた一般客も展示を目にすることになる。興味を持ってくれた人は2階まで上がってくれるかもしれない。というわけで、誘引効果も見込める増床となった。
昨年の展示は大学間の垣根を外して出展者の五十音順に作品を並べたのに対し、今年は大学ごとのグルーピング展示に戻した。各大学のスペースには大学紹介のボードを掲示。教室の風景写真などそれぞれ工夫を凝らした紹介に加えて、卒業設計に参加する研究室の数や卒計のスケジュール、提出図面の平均枚数といったデータを並べた。ずらりと並んだ作品の模型や図面群と共に、大学ごとのメッセージを発信していこうという狙いだ。
一方、来場者からの応答を得るために、審査員による審査とは別に投票を実施した。一般来場者が選ぶ「一般賞」と建築系の学生が投票する「建築学生賞」のほか、「大学賞」も選定。各大学の出展者と来場者が互いにメッセージのキャッチボールをできるようにした。
【2案が一騎打ち──審査講評】
第1次審査では、5人の審査員が5人ずつ候補者をピックアップ。非公開の第2次審査で、ファイナリスト10人と補欠候補3人を選んだ。午後1時、いよいよ3階ホールで講評会が始まる。
10人のプレゼンテーションと質疑応答の後、評価の高い案は比較的すんなりと集約された。戦争をテーマにした鈴木案と、駐車場を藁の屋根で覆った太田案だ。決選投票の結果、2対3で太田案が最優秀賞に決定。その後、「『こういう空間をつくりたい』という意思がストレートに出ていた(」千葉賞)、「設計者の美意識が感じられる(」五十嵐賞)、「構造がおもしろくなりそうな予感がある」(佐藤賞)、「もっとスタディを聞きたいという興味もある」(西沢賞)、「現代建築でつくる集落のモデルとして可能性を感じる」(吉村賞)として各審査員賞を選び出した。
最後は、全体を振り返ってのコメントだ。審査員長の千葉学氏は、「ある期間、集中して自分のやりたことを考え続ける卒業設計は、その後の設計者人生に亡霊のように残る大切なイベント。『よくわからないけれども、モヤモヤしながらボールを投げる』という体験を大切にしてほしい」と学生たちにエールを送った。

Photos except as noted by Hisako Moriyama.
【出展者、主催者の想いを伝えたい──主催者にきく(主催者代表 池谷郷司)】
出展した学生たちの卒業制作に対する想いと、私たちの建築に対する熱い想いを込めて「?」という全体テーマを設定した。
出展作品は、一般社会の人から見ておもしろく感じられるのか。共感を呼ぶ要素はあるのか。単に作品を並べて、建築関係者の中だけで評価するのではなく、それぞれの作品に一般の人たちに訴えかける力があるかどうかが大切だと思う。また僕たちの訴えかけに対して、来場者から答えをもらえるようにしたい。そこで、来場者による一般投票も実施した。
ちなみに、審査員の先生からのコメントを掲載したプログラムはなかなか好評だった。
【取材者コメント】
ひたすら明るく、さわやかだ。目の前のフラワーガーデンには色とりどりの花が並び、頬をなでる潮風が心地良い。こんなに気持ちいい1日を、何が悲しくて室内に閉じこもって過ごさなければならないんだろ……。そんな小さな心の叫びも、いざ会場に足を踏み入れたら吹っ飛んだ。
力作がそろい、審査員の言葉も1つ1つ刺激的で味わい深い。講評会の会場となった3階ホールでは「階段席の後ろの手すりにはよりかからないで」と注意を促すアナウンスが度々入るほどの人が集まり、あふれた来場者は床に体育座りしている。熱気。
主催者代表である池谷郷司さんの「一般社会の人に共感してもらえるかどうか」という言葉も頼もしく感じた。
来場者の一般投票と建築系学生の投票で受賞した鎌谷潤案は、円筒形を重ねた模型の迫力が印象的だ。やはり、模型の持つインパクトは大きいのだろう。白い模型が多い中で、茶色の塊となっていたところも効果大だったに違いない。巨大な模型をつくればいいというものではないが、シンプルなメッセージほど伝わりやすいというのも確かだ。
[取材・文=守山久子]
横浜赤レンガ倉庫1号館1階、2階
2009年3月25日[水]-30日[月]
赤レンガ卒業設計展2009実行委員会
千葉学[審査員長・建築家]
五十嵐淳[建築家]
佐藤淳[構造家]
西沢大良[建築家]
吉村靖孝[建築家]
神奈川大学、首都大学東京、昭和女子大学、東京工業大学、東京電機大学、東京理科大学、日本大学、日本女子大学、法政大学、前橋工科大学、武蔵工業大学、横浜国立大学
参加12大学で卒業設計を制作・提出した学生
7,000円
229作品
1次審査で審査員が巡回審査し、5人の審査員が各5作品を選出。2次審査の非公開ディスカションでファイナリスト10人と補欠3人を絞り込む。公開の講評会で10人のファイナリストによるプレゼンテーションと質疑応答、審査員によるディスカションを経て、最優秀賞、各審査員賞を選出した。別途、来場者による一般投票に基づいた一般賞、建築学生賞(以上、個人賞)と大学賞(大学への賞)を選んだ。
最優秀賞:『ほぐれる屋根の中で』 太田健裕(武蔵工業大学)
千葉学賞:『THE SCARS OF WAR----戦争という傷跡と記憶』 鈴木舞(昭和女子大学)
五十嵐淳賞:『Light in WALL』 近藤真里瑛(東京電機大学)
佐藤淳賞:『本のおうち』 松島咲季子(武蔵工業大学)
西沢大良賞:『カベをもつ町』 小宮山義人(法政大学)
吉村靖孝賞:『雪のさんかく』 北林さなえ(横浜国立大学)
一般賞:『本のおうち』 松島咲季子(武蔵工業大学)/ 『LA BIBLIOTECA DE BABEL』 鎌谷潤(東京工業大学)
建築学生賞:『LA BIBLIOTECA DE BABEL』 鎌谷潤(東京工業大学)
大学賞:東京工業大学(107票)

Photos except as noted by Hisako Moriyama.