東海地区を舞台にして全国から建築を学ぶ学生の卒業設計を集めた合同展。
dipcolle
【順位をつけない講評会に】
東海の大学を中心に、集まった作品は合計45点。全国各地で開催されている卒業制作展の中で、「dipcolle」の規模は決して大きくはない。出展者の所属も、法政大学や福井工業大学のような例外はあるが、基本的には愛知県内の学校が中心となっている。
合同展としては6回目、学生で組織する「FLAT」が運営母体となってからは2回目の開催だ。愛知工業大学、愛知淑徳大学、大同工業大学、名古屋工業大学、名古屋市立大学、名城大学という地元の学生10人による運営は、まさに手作り感あふれるものとなった。各作品の展示には赤いカラーコーンを連結させて裏返した台を利用し、受付ではスタッフが1次審査用のシールを切って準備しながら来場者に配る。予定通りに粛々と進むイベントとはひと味違う、素朴な臨場感が漂っていた。
講評会を実施した3月22日は、午後に豪雨が見舞うというあいにくの天気。しかし、名古屋市立大学北千種キャンパスの会場には、鈍色の空をものともせず学生たちが続々と集まった。
今回の審査の特徴は、「順位づけを行なう他の卒業設計展へのアンチテーゼとして」(FLATの森田恭平代表)あえて順位は設けずに各審査員の賞だけに絞ったこと。また、最終プレゼンテーション実施者を選ぶ際には、審査員のほか、建築系の教員や学生、一般来場者による投票も加味した。吹き抜けアトリウムを用いた講評会では、来場者たちが階段に腰掛けながら、エントランスホールに並んだ審査員とプレゼンテーターのやり取りに耳を傾けた。
【情報化と郊外化を主軸に議論──審査講評】
最終プレゼンテーションに臨んだ6人の作品を通し、審査員は「情報化と郊外化という現代的な課題にどう答えていくか」(藤村)という視点を中心に活発な議論を交わした。
1位案を設けない前提を踏まえつつ、審査の軸をつくったとして、審査員はまず長井案と鈴木案の2点を「非公式の優秀賞」に選出。その後、各審査員賞を発表した。鈴木案は「銭湯と宗教施設というビルディングタイプの提案が新鮮で、空間のつくり方がていねい」(五十嵐)、安江案は「大量のリサーチをベースに置き、それをうまく建築言語へ置き換えている」(藤村)、伊藤案は「環境と建築の問題に果敢にチャレンジした」(山崎)、長井案は「情報化への問題を解きたいけどなかなかうまくいかない現
状に勇気を与えてくれた」(吉村)といった評価を得た。
一方で、「ご当地卒計展の情報が増え、全体にひどい作品がない代わりに突出した作品も少なくなっている。そうした中、今の流れとまったく違う傾向の作品にむしろ安心感を覚えた」(吉村)という指摘もあった。これは、卒業設計展の意義を問い直そうとした今回のdipcolle自身にとっても、示唆に富む一言となりそうだ。

Photos except as noted by FLAT.
【地域ならではの独自性を出す──主催者にきく(FLAT代表 森田恭平)】
各地で卒業設計展を開催している現在、「地方でやる意味」を持たなければならないと思う。dipcolleの場合、作品は全国から公募するが、実際には愛知県の学生による出品がほとんどで、作品も地元をテーマとしたものが多い。そこで審査員も、愛知県にゆかりを持つなど東海地方に理解の深い先生を中心にお願いした。審査の際にあえて順位を付けないようにしたのは、卒業設計展での1位というものが、審査員の個人賞と実質あまり変わらないのではないかと感じたため。それなら、それぞれの審査員による評価という方向を明確にしようと考えた。
運営上は、一般来場者の票を含めた1次審査の結果をより透明化させたほか、講評会ではアトリウムの階段を用いるなど会場構成にも工夫を凝らした。コンセプトの発表や広報活動が遅れたという反省もある。後輩たちには、こうした体験を生かし、芸術系大学の学科の人たちも出展しやすいようにするなど今後への展開へとつなげていってほしい。
【取材者コメント】
ある意味、講評会は藤村さんの独壇場だった。
6人のプレゼンテーションが終わるや否や、議論のテーマとして「吉村問題」と「山崎問題」という2つの軸を設定してしまう。前者は、吉村さんがかつて参加した「せんだいメディアテーク」設計競技(1996年)以来のテーマといえる情報化と建築の在り方について。後者は、将来にわたる人口の減少や過疎化などを踏まえた、郊外化と建築の関係について。6人による提案のテーマやテイストが大きく異なっていただけに、これら2つの軸を設けたことで論点ははっきりし、複数の作品に対する議論がかみ合い、個々の作品の位置付けが明確になった。なるほど、講評会の議論とはこういう風に進めるものかと大変勉強になった。
ほかの審査員も、たとえば山崎さんが「そうか、私の問題に答えてくれていたのは○○さんだったんだね」などと続けたように、この方式にうまく乗っかる形で話を盛り上げた。プレゼンテーターの学生も、もしかしたら予想もしない切り口の質問だったかもしれないが、一生懸命答えていた。途中、アトリウムのガラスを豪雨が叩いたが、室内の熱気はその音に負けていなかった。
[取材・文=守山久子]
名古屋市立大学北千種キャンパス
2009年3月21日[土]-22日[日]
五十嵐太郎[建築評論家]
藤村龍至[建築家]
山崎亮[ランドスケープアーキテクト]
吉村靖孝[建築家]
全国の学校の建築系学科に学ぶ学生の卒業設計。自由応募。
45作品
1次審査では、審査員5ポイント、来場した教員2ポイント、一般来場者と建築系学生1ポイントの票を3票ずつ投票して合計ポイントの上位6人を選出。公開講評会のプレゼンテーションと質疑応答を経て、各審査員賞を決定。
五十嵐太郎賞:『IRODORI BENTO----居場所のつくり方』鈴木康紘(名古屋工業大学)
藤村龍至賞:『PLAN 138----Small town plan for ichinomiya Konfuturity』安江英将(愛知淑徳大学)
山崎亮賞:『サキモリズム』伊藤佑治(名古屋工業大学)
吉村靖孝賞:『図書さんぽ』長井裕志(豊橋技術科学大学)

Photos by the writer.